2019年9月6日にドイツで開催された家電総合展示会「IFA2019」でHuaweiからハイエンドスマートフォン向けのフラグシップSoC「Kirin 990」が発表されました。
世界で初めて5G通信モデムをCPUに統合したことと、今までのHuaweiのハイエンドスマホ用のSoCであった「Kirin 980」から大幅に機能強化しているとのことです。
厳密には「Kirin 990」には目玉機能の1つである5Gに標準対応した「Kirin 990 5G」と5G通信には対応しない「Kirin 990」の2種類があり、提供地域やモデルによって使い分けを行うそうですが、5G対応版では3Gや4G通信もカバーするため、フラグシップモデルであることを考えると「Kirin 990」では5G対応版が標準的に使われていくと考えられます。
そのためここからの紹介では、「Kirin 990 5G」をベース「Kirin 990」との違いにも触れながら特徴を紹介していきます。
目次
Kirin 990を3行でまとめると、、、
- 世界初の5Gモデム統合型プロセッサ
- Huaweiのハイエンドモデルに搭載されるCPU
- CPU性能だけではなく、AIやカメラ撮影機能もハイエンドに
Kirin 990の基本情報:スペック
メイン処理を担当するCPUは8コア構成で、2.86GHzの高速コアが2つ、少し速度を抑えた2.36GHz(Kirin 990は2.09GHz)が2つ、より低速に抑えた1.95GHz(Kirin 990では1.86GHz)のコアが4つという構成になっています。
3種類の周波数のコアを組み合わせることで動作するアプリが必要する性能や負荷状況に応じて柔軟に処理を行えるようになっています。
グラフィック処理やマルチメディア関連処理を担当するGPUは前モデルの10コアから大幅に強化され、16コア構成になっています。
AI関連処理を担当するNPUは、前モデルの2つのBigコアで処理を行う方式から、2つのBigコアと1つのTinyコアによって処理を行う「Da Vinciアーキテクチャ」という構成によりデータ伝送の効率を向上させ、AI関連処理の高速化をはかっています。
ただし、「Kirin 990」ではTinyコアは同じですが、Bigコアが1つに抑えられているため、5G版とは差別化が行われているようです。
そして通信モデムは「Kirin 990 5G」が2Gから5Gまで対応し、「Kirin 990」ではモデル名から5Gが外されている通り2Gから4Gまでをカバーしています。
「Kirin 990 5G」と下位モデルとなる「Kirin 990」では、通信モデム以外にもCPUの周波数、AI処理を担当するNPUの数に違いがありますが、機能を抑えられた「Kirin 990」でも前モデルの「Kirin 980」から機能強化がはかられています。
ライバルメーカーのハイエンドプロセッサを陵駕
ハイエンドスマートフォンのCPUでは、HuaweiのKirinシリーズ以外にもQualcommのSnapdragonシリーズ、サムスンのExyosシリーズがAndroid向け市場の中でしのぎを削っています。
また、iPhone向けのみとなっているため、直接競合はしませんが、AppleのAシリーズもハイエンド向けスマートフォンCPUとしては比較の対象として取り上げられることが多くなっています。
今回発表された「Kirin 990」は、QualcommのSnapdragonシリーズの最新モデルである「Snapdragon855」を引き合いに出し、CPU性能やAI関連処理いずれも「Kirin 990」の方が性能的に優れているとアピールしています。
サムスンののExyosシリーズと比べても優れており、Android向けではナンバー1の能力を持つことをアピールしています。
また、使用される製品がAndroidとiPhoneで異なることから直接競合はしませんが、APPLEの「A12 Bionic」と比べても「Kirin 990」の方が優れているとアピールしています。
世界初の5Gプロセッサ
海外では5G通信に対応したスマートフォンが発売され始めていますが、CPUと5G通信モデムは別々に組み込まれているのが実情ですが、「Kirin 990 5G」では世界で初めてCPUに5G通信モデムを統合したプロセッサとなります。
CPUに統合することで効率的に通信が行えること、組み込む部品の体積が減るため端末の小型化や電力使用の効率化など、スマートフォンメーカーにとっては非常に魅力的なCPUと言えるでしょう。
ユーザーの立場からも少しでも小型化されたり、バッテリー持続時間にいい影響を与えてくれる機能強化は非常に望ましいと言えるでしょう。
Kirinハイエンドシリーズの変遷
Kirinハイエンドシリーズでは、CPUを高クロックと低クロックの異なる周波数のマルチコア化とともに2年前に発表された「Kirin 970」でAI時代に対応するためのNPUという機械学習を専門に処理するチップを搭載しはじめました。
QualcommのSnapdragonシリーズなどライバルメーカーも同様の傾向ですが、Kirinシリーズではライバルメーカーより一歩抜きんでようという意思表示と、昨年の「Kirin 980」、今回の「Kirin 990」と着実に性能強化を図ってきています。
またKirinシリーズの場合、CPUの発表からあまり期間を開けずに自社ブランドのハイエンドスマホに実装し、性能をアピールするという流れになっています。
GPU処理を大幅強化
今回の「Kirin 990」では、グラフィック処理などマルチメディア関連処理を担当するGPU処理も大きく強化をはかっています。
前モデルの「Kirin 980」ではGPUコアを10コア搭載していましたが、今回は倍近い16コアへと大幅に強化を行っています。
このGPUコアを16コアというコア数にしたCPUは世界初ということです。
またGPUとメモリとの間に「スマートキャッシュ」という機能を搭載し、コア数の増加に加えてデータ伝送の効率も大きく改善をはかっています。
AI機能も強化
2年前の「Kirin 970」から始まったAI処理を専門に担当するNPUは、昨年の「Kirin 980」で搭載した2つのBigコア(無印の「Kirin 990」は1コアですが)を継承するだけでなく、小さな処理を担当するTinyコアを追加し、AI処理で行われるデータ伝送の効率を大きく改善しています。
初代「Kirin 970」からAI処理の性能を比較すると12倍も高速化されているとのことです。
大きく強化されたAI処理と5G通信の組み合わせによりリアルタイム処理でAI処理を行うことができるようになっています。
AI処理の例としては、複数の人物が動く動画で人物のみを切り出したり、背景をぼかしたりする処理を複数人に対してリアルタイムで行えるというデモが発表会では披露されています。
CPU・GPU性能だけではないカメラ機能も強化
カメラ機能も「Kirin 990」では大きく強化がはかられています。
スマートフォンのカメラ撮影では撮影した画像をデジタル処理するわけですが、その際に画像処理を行うISPというプロセッサを大きく改良しており、消費電力を抑えながら静止画・動画のノイズ除去処理の性能を強化しています。
ノイズリダクションの機能はスマートフォンのカメラながらデジタルカメラレベルの性能を持っており、例えば写真に写りこんだ布の繊維もつぶれずに1本1本表現することできるとのことです。
これから発表されるHuweiのハイエンドスマホに搭載
HuaweiのKirinシリーズは、同社のハイエンドスマートフォンに採用されているCPUですが、CPUの発表からあまり間を開けずにフラグシップモデルの発表を行い、実際のスマートフォンの性能としてユーザーに見える形で示す取組を行っています。
今回の「Kirin 990」でもまもなく発表されると思われる「Huawei Mate 30」シリーズへの搭載が噂されており、果たしてどのような形で目に見える性能アップを見せてくれるか、目を離すことができない状況となっています。
まとめ:今後発売されるKirin 990搭載スマホは買いか否か
「Kirin 990」はスマートフォンやタブレットに使用されるCPUであり、個別販売は行っていない部品のため、「Kirin 990」を搭載したスマートフォンは買いか?というまとめとなります。
結論から言って「間違いなく買い」と言えます。
CPU単体の発表でも2年前の「Kirin 970」、昨年の「Kirin 980」から大幅に強化されていることをアピールしている「Kirin 990」ですので、スマートフォンに搭載されたときにどのような機能強化が行われるのか、楽しみで仕方ありません。
アメリカと中国の通商摩擦によりHuawei製品は狙い撃ちされている点が不安要素であるものの、現在のフラグシップモデルである「Kirin 980」を搭載した「Huawei P30」シリーズもライバルメーカーたちのハイエンドスマートフォン比べて、カメラ性能やAI関連処理が一歩抜きんでている印象のあるHuaweiですから、今後発表される「Huawei Mate 30」シリーズでは、どのような進化が図られるのか、注目して購入を検討してみてください。